そういえば、夏に海に来ることなんてほとんどなかった。
逗子駅から、バスに乗って気づいた。全部の席が埋まり、少しの人がつり革を持って立つ程度の混み具合。地元の人だろうという乗客の中に、若い女の子二人組が、高く大きな声を出して、話をしている。そして、何人かの西洋人。短すぎる短パンにサングラス。夏っぽくて、海に行きそうだな、って思った。あ、そうだ。夏だ。
バスを降りると、賑やかな海水浴場を通り抜け、僕は静かな海で一旦落ち着いた。ビールを買ってこようかと思ったけど、もうめんどくさくなった。まあいいや。そこには、一組の親子と、一人のおじちゃんが静かに何度もやってくる波に打たれに行っていたり、犬を遊ばせる飼い主に元気よく海に飛び込んでいく犬。そして、たまに通る人。
最初はおとなしく海を眺め、足をつけたりしていたんだけど、近くにいたおじちゃんが、気持ちよさそうに波にあたっている。僕はその日、奇跡的にもう一つズボンを持っていたことに気がついた。
この夏らしい天気に、我慢できなかった。僕は濡れた砂浜にズボンのままお尻をつけた。
そのうちその波が行き来するその場所で寝転んでぼーっとする。
なんども波が打ち付けられて、空を眺めた。
もうズボンは取り返しがつかないほどに濡れていた。
僕は少し歩いて、少しだけ賑やかな海水浴場でズボンのまま泳いでいた。ほどよく人が多い。楽しそうな声を聞きながら、僕は海に入る。何度も足が届かないようなギリギリの所まで行っては、大きな波に合わせて、沖まで泳いで戻って来た。
実家に帰るまでのほんの寄り道、ちょっとした遠回りのつもりが僕はそこにだいぶ長いこといた。
僕の、ささやかな、初夏の思い出。
代官山 comecafe&osamubar にて
『旅写真と僕を支えてくれた言葉たち』展示・販売中
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旅する写真家 HIROSHI KIKUCHI
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