旅は、本当にいろんな人と出会うし別れもある。
でも旅する方向が一緒なら、一度出会っていても、何度でも出会っては別れ、の繰り返しということもよくある。
特にベトナムでは、そうだった気がする。
南下するか、北上するか、だからかな。
ベトナム、ハノイ。
僕が泊まっていた宿の前で何となく考え事をそこにいると、目の前に止まったタクシーから白人のカップルと一人の日本人が現れた。
フエで出会った一人で、ハノイでまた会おうね、とは言いながら別れたのだが、なんの確約もなかった。
『あ、ひろし!!!』
この偶然のタイミングに、お互いに驚きつつも再会を喜んだ
そんなこんなで僕らは一緒にハロン湾のツアーに参加した。
ハロン湾までのバンで本当にいろんなことを話した。
その人とはいろんなことを話した。旅のこと、仕事のこと、どうやって生きて行くのかということ。
その人は、本当に、悩み、真剣に考えた末、旅に出て考える時間を作った。
でもその答えを出来ることなら先延ばしにしたいとも思っていた。
旅に出ても結論を出せずに、旅が終わろうとしていた。
ハロン湾から帰った夜。そんな友人の、一ヶ月の東南アジア旅行の最後の夜だったのだ。
一緒にフォーのお店に行った。少しお酒も飲んだと思う。
『あぁ、これで明日から現実に戻っちゃうんだ〜』
友人がすこしさみしそうにそう言った。
僕は、友人がその言葉を言い終わらないうちに、自分でもびっくりするぐらい少し強めの口調でこう言った。
『今日だって現実じゃん』
旅に逃げてきてるのかもしれない。そんな想いが自分自身に対してもあった。
いろんなことがある。悩みだってある。乗り越えられず苦しんでいるものだってきっとある。
旅に出たって、きれいさっぱり悩んでいることが消えてしまうわけではない。
旅に出てもいろんなことがあり、悩むことだってある。
旅であろうが、いつもの変わりなく見えるような毎日でも、
見える世界が変わるだけで考えなければならないことは同じ。
その言葉は、間違えなく自分に向けられたものだった。
次の日、僕はその友人を空港に見送った。
日本に帰って行く友人を見送りながら、
笑顔で手を振るあの顔が、なんだか突き刺さった。
きっと、毎日が現実なんだ。
逃げるところなんて、どこにもないんだ。
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